旅するペンギン

ペンギン 大通りのスクランブル交差点を 斜めに渡っていると 真ん中にペンギンが立っていた その手にアイスキャンディを持って 右に避けると右に行き 左に避けると左に行くので どうにも進めなくなっているうちに 青信号はちかちか点滅し始めた ペンギンはしきりに恐縮して 汗をかきながらぺこぺこ頭を下げるが 灼熱のアスファルトの上で アイスはだらだら無残に垂れていく 結局ぼくとペンギンは 交差点の真ん中に取り残されたのだった クラクションとともに 車列がぼくたちを挟んでいく ぼくとペンギンは倒し損ねた 2つのボーリングのピンのように 並んで立っている 車列のスピードが景色を漂白していく 思い出したがぼくには 交差点の向こうに女が待っているはずだった しかし向こう岸は少しずつ遠ざかり 女は手を振るが顔は霞んでわからない 気がつくと 女の顔さえも思い出せなくなっていた 対岸は夕闇に暮れていった いつしかぼくたちは 激しい急流の中に立っていた ふわふわ深い靄が立ちこめていた 左から首長竜が流れてきた 右からは装甲車 前から捻れた五線譜と噛みつきそうなビーナス像 後ろからは額から血を流した柱時計が ぼくたちの耳朶をかすめていった 遠くを見つめながらペンギンは言った あなたは一度も待ち合わせなどしていないのですよ。たった一つの約束を除いては…。 太陽が卵黄色に熟した夕べに ぼくとペンギンは対のように 葦高い中洲に佇んでいたのだった 周囲は遥か南氷洋の懐かしい風景に変わった あなたが歩いたどんな道も帰り道だったのです。鮫のような心に脅かされても あなたは小石のように傷つくことはないでしょう。 狭い中洲を挟んで様々なものが流れてくる 廃屋 駄菓子屋の玩具 壊れたコスモス―― ところでペンギンは何処から来て何処へ行くのか? ガムの看板から抜け出てきたような顔で怪しいのだ
- 著者
- 船田 崇
- 出版社
- 書肆侃侃房
- 発売日
- 2012-06-11
- 価格
- 2,000円(税込・書誌情報提供:openBD)
- ISBN
- 9784863850804
- ページ数
- 128ページ
発売済み
関連書籍
広告