文士の「妻」たち

47名の文士の「妻」たち。文学者の人生と創作を支え、あるいは揺り動かした女性たちの姿を描き出し、見えないものにされてきた女性の役割とは一体何だったのかを探る。 ある女性は、小説のモデルとなり、ある女性は、自ら筆をとって作家として活動し、ある女性は、俳優や芸術家として活躍した。ひたすら夫の創作活動を支え、作品を後世に残そうと尽力し、夫に代わって作品を書いた女性もいる。すでに名を知られている妻もいれば、ほとんど知られていない妻もいる。夫を支えた「良妻」として語られてきた女性もいれば、「悪妻」とみなされてきた女性もいる。 彼女たちは、いったいどんな女性だったのか。そして、文学史のなかで見えにくくされてきた彼女たちは、どのような役割を担っていたのか。 作家たちの陰には、さまざまなかたちで彼らの人生や創作に関わった「妻」たちがいた。「妻」にスポットをあて、集成した初の書。 2026年度NHK「連続テレビ小説」『ブラッサム』の宇野千代、2028年度NHK「連続テレビ小説」『ほんのモキチ』のヒロイン、斎藤茂吉の妻、斎藤輝子ほか登場。 執筆は、安達原達晴、安西晋二、石井花奈、石井要、石原深予、伊豆原潤星、伊藤博、大木志門、大橋崇行、岡英里奈、小澤純、神村和美、小堀洋平、小山弘明、鈴木優作、滝口明祥、武久真士、多田蔵人、田村美由紀、中野綾子、西井弥生子、仁平政人、能地克宜、芳賀祥子、服部徹也、藤木直実、古川裕佳、安智史、山田昭子、𠮷田恵理、吉田竜也、吉田遼人の32名。 ◆本書に登場する妻(47名)と文士(46名)(登場順) 【谷崎松子[谷崎潤一郎]、田山りさ[田山花袋]、徳田はま[徳田秋聲]、高村智恵子[高村光太郎]、平野つる・浅見ハナ[葛西善蔵]、小島キミ[横光利一]、尾崎松枝[尾崎一雄]、徳廣繁子[上林暁]、森しげ[森鷗外]、与謝野晶子[与謝野鉄幹]、国木田治子[国木田独歩]、遠藤清子[岩野泡鳴]、有島安子[有島武郎]、江口章子[北原白秋]、室生とみ子[室生犀星]、宇野千代[尾崎士郎・北原武夫]、北畠八穂[深田久弥]、武田百合子[武田泰淳]、島尾ミホ[島尾敏雄]、北村美那子[北村透谷]、坪内セン[坪内逍遥]、夏目鏡子[夏目漱石]、泉すず[泉鏡花]、藤蔭静枝[永井荷風]、斎藤輝子[斎藤茂吉]、上田稲子・大谷美津子[萩原朔太郎]、萩原アイ[三好達治]、原政野[中野重治]、九條今日子[寺山修司]、津島美知子[太宰治]、尾崎喜久[尾崎紅葉]、石川節子[石川啄木]、志賀康子[志賀直哉]、内田清子[内田百閒]、中原孝子[中原中也]、中島タカ[中島敦]、井伏節代[井伏鱒二]、島崎静子[島崎藤村]、堀多恵子[堀辰雄]、正宗つ禰[正宗白鳥]、芥川文[芥川龍之介]、平井隆[江戸川乱歩]、川端秀子[川端康成]、坂口三千代[坂口安吾]、澁澤龍子[澁澤龍彥]】 ◆「はじめに」より 【本書を通読することで、日本の小説家や詩人の妻たちのさまざまな姿が見えてくるのではないだろうか。(…)しかし、どのような女性であれ、「妻」であった期間は、夫に対して、いやそれだけには限定されない様々な役割を果たしていたはずである。これまで見えないものにされがちであった、そうした女性たちの役割について読者が考えるきっかけに本書がなることを、編者として心より願っている。】
- 著者
- 滝口明祥、大木志門、岡英里奈
- 出版社
- 文学通信
- 読者対象
- 一般書
- 内容
- 日本の評論・随筆
- 発売日
- 2026年10月30日
- 発売日の出典
- openBD
- 価格
- 2,400円(税込・書誌情報提供:openBD)
- ISBN
- 9784867661345
- ページ数
- 256ページ
- 判型
- 四六判
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はじめに―なぜ文士の「妻」たちを取り上げるのか 芸術家の周辺にいた女性たち/「妻たち」とは誰か─本書の構成と概要 ◆第1部 名作のモデル 松子神話の呪縛を越えて ◇谷崎松子─谷崎潤一郎 [田村美由紀] 三人の妻たち/逆転する「主従関係」/自分の言葉で自分を語る 友の「妹」から文学者の「妻」へ ◇田山りさ─田山花袋 [小堀洋平] 門下生と愛人の影で/作品に不可欠な存在へ 筆を持たぬ無名の芸術的女性 ◇徳田はま─徳田秋聲 [大木志門] 作品に描かれ続けた人/明らかになった家系/作家達に愛された人柄 「わたしの一生はわたしがきめればいいんですもの」 ◇高村智恵子─高村光太郎 [小山弘明] 平塚らいてうに見出された画才/毀れいく智恵子の心 私小説作家に注がれた女性のまなざし ◇平野つる・浅見ハナ─葛西善蔵 [伊藤博] 妻を帰郷させ、別の女性と同棲/二首の短歌にこめた思い 「あたし、こんな看病なら、して欲しかないの」 ◇小島キミ─横光利一 [芳賀祥子] 困難な同棲生活/「春は馬車に乗つて」に描かれた妻の姿 妻の明るさと生きていく ◇尾崎松枝─尾崎一雄 [伊豆原潤星] 松枝と尾崎の出会い/尾崎文学に宿る、妻を軸とした明るさ 語られる妻、語り返す妻 ◇徳廣繁子─上林暁 [伊豆原潤星] 妻を描いた作品によって文壇に登場/上林の〈病妻もの〉 ◆第2部 自らも筆をとる 抹消された小説家 ◇森しげ─森鷗外 [藤木直実] 二十四作品を世に送った作家、だが/悪妻としての名を広めた小説「半日」/尊厳を回復する営為としての「書くこと」/テクスチュアル・ハラスメントが覆い隠したもの 恋多き男を恋う ◇与謝野晶子─与謝野鉄幹 [藤木直実] 鉄幹と晶子が出会うまで/鉄幹との出会いがもたらした変貌 「妻」、そして「未亡人」の役割を引き受けて ◇国木田治子─国木田独歩 [小堀洋平] モデル化の螺旋構造/「未亡人」の役割を引き受けながらの執筆 愛の争闘 ◇遠藤清子─岩野泡鳴 [吉田竜也] 「私は男の性慾の道具になりたくはない」/泡鳴からの検閲を残す 遺された言葉の束 ◇有島安子─有島武郎 [石井花奈] 療養生活でしたためられた日記と短歌/妻の日記を書き写す行為 演じきれなかった私小説的主人公 ◇江口章子─北原白秋 [能地克宜] 遊蕩癖の男との結婚がもたらしたもの/白秋との清貧生活 臥してなお書き続け、書かれ続ける ◇室生とみ子─室生犀星 [能地克宜] 小学校教員時代の文学との出会い/娘が残した母の様子 夫の才能を見出し、見守る慧眼の持ち主 ◇宇野千代─尾崎士郎・北原武夫 [山田昭子] 『時事新報』の懸賞短篇小説で文壇デビュー/妻の横顔に潜む孤独の影 妻であり仕事上のパートナーでもあった一四年 ◇北畠八穂─深田久弥 [滝口明祥] 脊椎カリエス発症と懸賞創作への応募/共同制作によって生み出された珠玉の作品たち/久弥の裏切りから破局へ 生活者のまなざし ◇武田百合子─武田泰淳 [田村美由紀] 『富士日記』に至るまで/能力を矮小化する「テクスチュアル・ハラスメント」 夫を凌駕する小説世界 ◇島尾ミホ─島尾敏雄 [安達原達晴] 誕生から死まで/夫の清書から本格的な執筆へ/敏雄を凌駕する表現 ◆第3部 妻も有名人 「透谷未亡人」から「キティ」、そして「北村先生」へ ◇北村美那子─北村透谷 [大木志門] 透谷との短い結婚生活/アメリカ留学から英語教師に/透谷に替わって近代人を生きる 遊女と文豪の純愛 ◇坪内セン─坪内逍遥 [大橋崇行] センの来歴/逍遙との出会い/周囲からの差別意識 稀代の文学サロン「木曜会」をささえた女 ◇夏目鏡子─夏目漱石 [服部徹也] 「悪妻」イメージの源/鏡子は何を書き残したのか/ 豊潤なる鏡花世界の一源泉 ◇泉すず─泉鏡花 [吉田遼人] 鏡花の詩神/幽明境を異にしても 舞台と言葉 ◇藤蔭静枝─永井荷風 [多田蔵人] 日本舞踊に新風を吹きこんだ芸術家/同時代風俗の窓口/「藤蔭会」立ちあげ以後 世界各地を旅した気骨と品格あるスーパーレディ ◇斎藤輝子─斎藤茂吉 [石原深予] 「おまえが男だったら」/別居に至った事件 モダンガールと「日本の女性」 ◇上田稲子・大谷美津子─萩原朔太郎 [安智史] 「私の結婚は失敗だつた」/五二歳の時に、二六歳の美津子と再婚 「花」の女 ◇萩原アイ─三好達治 [武久真士] 師の姪に求婚するが…/アイへの愛情を歌った詩集? 夫が愛した二つの「鼻柱」 ◇原政野─中野重治 [神村和美] 俳優業と結婚生活の両立/獄中の夫と仲間たちへ 女優からプロデューサーへ ◇九條今日子 ─寺山修司 [仁平政人] 寺山との不思議な関係/「気がつくと家じゅうが劇団」 ◆第4部 苦楽を共に 「ただ彼の天分に眩惑されていた」 ◇津島美知子─太宰治 [滝口明祥] 見合い相手の著作を読む美知子/口述筆記という形での協力/「金の卵を抱いている男」の妻として/『太宰治全集』の刊行 夫に、貧に、苦慮して歩んだ六〇余年 ◇尾崎喜久─尾崎紅葉 [吉田遼人] 「理想的妻君」の抱えた苦難/印税暮らし後の貧窮 啄木の才能を信じ続けた人 ◇石川節子─石川啄木 [大木志門] 結婚式に現われない新郎/夫の才能を信じ続けて/啄木資料を後世に残す 創作の起爆剤 ◇志賀康子─志賀直哉 [古川裕佳] 実父との不和と和解に与えた影響/ネガとして、鏡として、 Meine Geliebte(私の愛する人) ◇内田清子─内田百閒 [西井弥生子] “Matte matte matte iru”、「相剋記」がもたらした亀裂 「夜は早く寐て、朝は早く起きる!」 ◇中原孝子─中原中也 [𠮷田恵理] 周縁化される詩人の妻/中也の詩にとって妻とは何か 表現のレッスン ◇中島タカ─中島敦 [石井要] 的確で明快な妻の言葉/共鳴する書くことをめぐる困難 影の仕事に徹し続けた六〇余年 ◇井伏節代─井伏鱒二 [滝口明祥] 「女友達」との「恋愛結婚」/女学生から貧乏文士の妻へ/「家庭争議の相手」の献身 ◆第5部 妻たちの手記・回想 「わたし」の人生を、「わたし」の言葉で ◇島崎静子─島崎藤村 [岡英里奈] 作家の「妻」と書くこと・書かれること/晩年における藤村の「変化」と静子/「新生」事件と静子/静子が語る自らの生 故人を想い、自己を見出す ◇堀多恵子─堀辰雄 [中野綾子] 手紙を通じた交流から結婚まで/初めての執筆と著書/作家・出版関係者らとの交流/旅へのこだわり/故人を代弁する際の在り方 「感化」を与え、与えられる夫婦 ◇正宗つ禰─正宗白鳥 [吉田竜也] 「病床日誌」に描かれた白鳥/妻から受けた感化 育まれる芯の強さ ◇芥川文─芥川龍之介 [小澤純] 出会いから龍之介の絶命まで/夫亡き後も「ふつう」を保ち続けた芯の強さ/芥川文学を理解するための重要なヒント 乱歩の二面性の証言者 ◇平井隆─江戸川乱歩 [鈴木優作] 乱歩を語る隆/せめぎ合う二面性 「記憶係」の証言 ◇川端秀子─川端康成 [仁平政人] 康成に振り回される/助手・「妻」としての役割/過去を正確に書き記すことへのこだわり 〈作家〉となる喜びと苦悩を味わう ◇坂口三千代─坂口安吾 [安達原達晴] 空白を埋める『クラクラ日記』/〈作家〉であることの喜びと苦悩 〝日常〟を楽しむ「妻」 ◇澁澤龍子─澁澤龍彥 [安西晋二] 旅と食/推敲を終えた原稿の清書 おわりに─忘れてはならない「妻」以外の女性たち 執筆者一覧 写真出典・提供元一覧 文士の「妻」たち 生年・没年表
著者について
滝口明祥
大東文化大学文学部教授。専門は日本近現代文学。主な著書に『井伏鱒二と「ちぐはぐ」な近代』(新曜社、二〇一二年)、『太宰治ブームの系譜』(ひつじ書房、二〇一六年)、『井伏鱒二 ハナニアラシノタトヘモアルゾ』(ミネルヴァ書房、二〇二四年)、『太宰治のエディターシップ』(ひつじ書房、二〇二五年)。
大木志門
東海大学文学部教授。専門は日本近現代文学。主要著書・論文に『徳田秋聲と「文学」』(二〇二一年、鼎書房)、『徳田秋聲の昭和』(二〇一六年、立教大学出版会)、『石川啄木作品アンソロジー エッセンシャル啄木』(編著、二〇二四年、田畑書店)。
岡英里奈
秋田大学教育文化学部講師。専門は日本近現代文学。主要著書・論文に「「私」と「場所」を繋ぐ―「ローカル・カラー」の時代の中の『千曲川のスケツチ』(『島崎藤村研究』第五〇号、二〇二三年)、「「終末」から距離をとること―水上勉の原発文学における若狭という「場所」」(『昭和文学研究』第九三集、二〇二六年)、「自然主義文学と〈家〉」(山﨑義光・尾崎名津子・仁平政人・野口哲也・村田裕和・森岡卓司編『日本近現代文学史への招待』ひつじ書房、二〇二四年)。
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