翻訳目錄

2020年に「日本翻訳大賞」を受賞した精神科医・阿部大樹、受賞後初の著書。 言葉の意味はたえず変わっていく。 書き留められるのは、その一瞬にもっていた意味だけだ。 ―――言葉はいつまで、もぞもぞ動く? 翻訳家(精神科医)が”私的なノート”に書き溜める、 国や地域、時代をまたぐ味わい深いことばたちを、ひろく紹介する、ちいさな目録。 ”名無しの翻訳”、”時代とともに消えた言葉”、”意味の移り変わり”など 私たちの、”くちのききかた”からこぼれた60個の欠片を、版画家・タダジュンの挿絵とともにしずかに眺める。 例1:a three-days sensations/人の噂も七十五日 逐語訳すると「三日間の衝撃」であるけれども、これは(すこし時代がかった)英語の慣用句で、大きな事件もしばらくすればさっぱり忘れられてしまう、という意味。これを説明するのに、「75日」と持ってきた辞書は大胆だなぁと思う。 三日天下、三日麻疹、三日坊主などどれも、「早く過ぎること」のたとえ。三日にあげず会う恋人たちなら、ほとんど毎日会っている(たぶん)。三日見ぬ間の桜は、ちょっと目を離したすきに散ってしまった花。ひとの気が変わりやすいことについても使う。 例2:Fight-or-Flight response/「闘争か逃走」反応 動物が突然の恐怖を感じると、心拍数は上がり、注意が鋭敏になり、瞳孔が開く。つまり自分の身を守るため、敵と戦うか、あるいは全力で逃げる準備をする。1915年にこれを発見したアメリカの生理学者は、うまい韻を踏んでこの現象に名前を付けた。これの日本語訳もなかなかうまいけれど、翻訳者の名前は伝わっていない。詠(よ)み人(びと)知らずの翻訳である。 例3:Barometer/アメカゼヲ知ルトケイ 明治期の英日辞典より。 バロメーターとカナ書きすると本来の意味からは離れて、ひとの反応とか心情を知るための方策、くらいの意味になる。もともとは気圧計のことで、後には風向計のことも指すようになった言葉。 周りの顔色ばかり窺っているひとを、風向計になぞらえて風見鶏と言う。心情がたくさんにあつまると、風や空気に例えたくなるのかもしれない。一人ひとりが思っているのとは違う方向に、どうしてか全体が傾いてしまうこともある。
- 著者
- 阿部大樹、タダジュン
- 出版社
- 雷鳥社
- 読者対象
- 一般書
- 内容
- 日本の評論・随筆
- 発売日
- 2020年12月11日
- 発売日の出典
- openBD
- 価格
- 2,000円(税込・書誌情報提供:openBD)
- ISBN
- 9784844137733
- ページ数
- 160ページ
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