
短篇の名手が描く、アメリカ南部アパラチアの歴史と風土と人間ドラマ。 フランク・オコナー国際短編賞、O・ヘンリー賞など、数々の賞を受賞した作家の傑作短篇集Something Rich and Strangeから選りすぐりの19篇を収録。本書に惚れ込んだベテラン翻訳家の手による渾身の翻訳。巻末解説はアメリカ文学者の後藤和彦氏。 ■収録作品一覧 試練の日々 Hard Times 午前三時、満天の星 Three A.M. and the Stars Were Out 午後の飛翔 The Ascent ナイト・ホークス——夜ふかしをする人々 Night Hawks 決断 Lincolnites 谷の奥へ Into the Gorge 帰郷 Return 火影 Burning Bright 大魚 Their Ancient, Glittering Eyes 流れ星 Falling Star 豊かで風変わりななにか Something Rich and Strange 落とし前 The Dowry あと二十六日 Twenty-Six Days 最後の儀式 Last Rite 六月のブラックベリー Blackberries in June 収穫 The Harvest 南部的愛の痛み Love and Pain in the New South シャイロー Shiloh ならず者たち Outlaws ラッシュの文学には、たとえば大恐慌時代や、ヴェトナム戦争期のことや、さらに古く南北戦争前後に至るまでこの土地の歴史を幾重にも遡りながら、アパラチアという土地の味わいのその全体を活写し尽くそうとする意気込みが横溢している。つまり、そこには風土がまずもってある。厳然としてある。にもかかわらず、カーヴァー作品の人間ドラマの普遍性を連想させもする——それがラッシュの「否!」の文学に独特の魅力なのではないか、ぼくはそう考えてみたいのである。 ——後藤和彦「解説 アパラチアの文学者たち」より ロン・ラッシュは困難や理不尽に直面して、無言で立ち尽くす人を描くのがうまいのだとあらためて気づく。……日々の生活のずしりとした重みを、老境のやるせなさを、ダメな自分を丸ごと背負いながら、その静かなのに雄弁な姿に、弱いのに強い生き方に、訳していてたびたび胸を打たれ、わたしはロン・ラッシュのそこに惹かれ、だから紹介したいと熱望したのだと思い至った。 ——芹澤恵「訳者あとがき」より ……ジェイコブは薪割り代わりにしている切り株に腰を降ろした。角灯の火を吹き消し、そして待った。なにを待っているのかは、自分でもよくわからなかった。やがて月影と星明かりが薄れ、じきに東の空がガラス細工を思わせる濃い藍色に明るんできた。畑のトウモロコシの葉と軸がぼんやりと見分けられるようになった。ぼろをまとった腕が何本も地面から突き出し、必死に手を伸ばしているように見えた。 ——「試練の日々」より
発売まであと4日
3,800円(税込・書誌情報提供:openBD)



