ソウルからの手紙

闘い続ける宗教家の姿  著者は東大法学部をおえてから神学を修め、現に東京で牧会しているプロテスタントの牧師である。東京神学大学大学院在学中に、すでにソウルの延世大学連合神学大学に留学し、戦前朝鮮文学の紹介者として知られた金素雲氏の長女と結婚した著者は、やがて戦後はじめての日本基督教団宣教師として家族同伴33歳の若い身を再びソウルに運ぶ。やみがたい心情につき動かされた著者の活動を経済的に支えようとした後援会全員に、著者はソウルからの報告を送りつづけた。その期間は1937年3月から、79年10月にわたり、著者は最後に大統領出国命令で日本に帰る。朴正煕殺害の数日前のことである。  本書はこの6年半にわたる通信の前半、75年12月までの手紙をまとめたものであって、著者は日本統治のなまなましい傷跡を見せつけられながら、買春観光、田中首相の日本統治礼賛、そして大統領夫人狙撃事件などに噴出する反日感情を痛みとともに受けとめソウル郊外の教会の協力牧師と韓国神学大学の2コマの講義を中心に、韓国との心の絆を結ぼうと努力する。けれども、この時期はまたそのまま朴正煕維新体制と重なり、著者は「韓国の政治体制が今いかにあれ、日本人としてその中に入っていき、そこにとどまって生きたい」という願いにもかかわらず、政治の激動に揺さぶられ、また鍛えられずにはすまない。  これは韓国社会におけるキリスト教の、日本人の想像をはるかに越える力量からの必然であり、維新体制に対して確信をもって民主化を要求し、人権を擁護するとき、教会はつねに全面に立っていた。もとより、そこには権力に迎合する聖職者もいる。しかし、すぐれた宗教家が信仰に忠実に投獄・迫害にたえて闘いつづけた姿が、実に生き生きと描かれて、第一級の証言となっている。拘束者家族のための木曜祈祷会の情景は、現代世界において最も力強い信仰の生命力を伝え、義妹の投獄、韓国神学大学への教授追放・学生除籍の強要など悲痛な経験の中から、著者はイエスの福音の政治的意味をまで問い返している。本書は著者の通信全体の約半分にすぎず、まして著者の全斗煥体制への見方は本書からはうかがうべくもない。ただ例えば韓国キリスト教学生・青年組織の訪日反対声明の理解に役立つことだけは、争うべくもないところである。(朝日新聞 1984.9.3)

著者
澤 正彦
出版社
草風館
読者対象
一般書
内容
日本の評論・随筆
発売日
1984年6月1日
発売日の出典
openBD
価格
1,800円(税込・書誌情報提供:openBD)
ISBN
9784883230556
ページ数
312ページ

発売済み

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