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咽頭をぐいと拭った綿棒に百万人の死の炎(ほむら)見ゆ 救命救急医が新型コロナウイルス禍の現場から歌を届ける。 この閉塞状況の中、すべての医療従事者とすべての名もなき人々のために。 緊急事態宣言が連発され、本来の非日常が日常化していく中で、言葉が持つ力が次第に弱まっていくことを危惧している。しかし映像では伝わらない出来事や、声にならない声を言葉にすることが、現在の第三波まで続く不連続な局面を打開する希望になると信じている。 そしてまた、その不確実さや不連続な状況にもまれながら、医療従事者が目の前の出来事に、どう向き合ってきたかをこの禍が過ぎ去ったあとにも残しておきたいと思い、歌を詠み続けている。(著者あとがきより) 【収録歌より】 マスクでも感謝でもなくお金でもないただ普通の日常が欲し 世の中の風当たりにも耐えるよう防護ガウンを今日も着込んで 昼が来て夜が来てまた昼が来て看護師はこれを一日と呼ぶ 一日はかくも長きか口と皮膚覆われ今は肩で息する 感染者最多でなければニュースでは天気予報のような扱い 病棟に展開したる前線の向こう側へと常に降る雨 この波を越えたら出そうと退職の書類が三度眠る引き出し モニターの音は消されて午前二時冷えたガラスを叩く五月雨 必要に迫られ買った歯ブラシの悲しみに似た深く濃い青 逝きて後PCRの結果出て今年の冬に人は二度死ぬ 呼吸器を外せばすなわちこの世とは一つの大きな肺胞である 少しずつ枕詞を変えながら「我慢の連休」「勝負の三週」 口元が露わになれば恥ずかしくいつの間にやらマスクは下着
- 著者
- 犬養楓
- 出版社
- 書肆侃侃房
- 読者対象
- 一般書
- 内容
- 日本の詩歌
- 発売日
- 2021年2月11日
- 発売日の出典
- openBD
- 価格
- 1,500円(税込・書誌情報提供:openBD)
- ISBN
- 9784863854482
- ページ数
- 144ページ
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